60代のトランスジェンダー

60歳を過ぎてからジェンダークリニックの門を叩いたMtFのお話

性同一性障害特例法の手術要件を考える

2月にSRSをして、そして今回、海綿体の除去手術をしました。

1年に2回(声帯手術もしていますが特例法とは直接関係ないので除外します)手術して思ったことは、経済的なことは置いておくとしても、体は苦痛に耐えることでとても大変だし、仕事は休まなければいけないし(長期休暇が取れる大企業ならいざしらず、個人で商売してたら無収入に直結です)で、性別を変更するためにこんなことを強要するなんてほんとに野蛮な国だなぁということです。

国立国会図書館によれば、2019年5月の時点で欧州49カ国のうち、性別変更手続きに手術要件がない国は28カ国にのぼるそうです。また、ヨーロッパ以外でもアルゼンチン、コロンビア、ボリビアエクアドルウルグアイ、カナダ、アメリカの一部(ニューヨーク州カリフォルニア州ワシントンD.C.など7地域)、メキシコの一部(メキシコシティと他の5州)なども手術要件はないそうです。

また、2014年5月にWHOなどが「不妊要件」を法的性別変更の要件とすることを批判する共同声明を発表し、2017年4月には欧州人権裁判所(47カ国が加盟する欧州評議会に属する)で、 「不妊要件は欧州の人権条約に違反する」という判決が出されたということです。

こうしてみると「性別変更に手術要件は必要ない」というのが世界の流れですね。

なぜ日本は世界の流れに乗れないのでしょう?

実は日本でも性別変更の手続きから手術要件をなくすよう求める裁判が行われています。

生殖機能を失わせる手術を必要とする要件は違憲だとして争った裁判で、最高裁は2019年1月23日に「現時点では」との条件付きで合憲の判断をしています。

しかし、手術の強制は個人の尊厳を踏みにじる人権侵犯であり、憲法13条に違反するという意見もあります。

また、今年(2021年)10月4日に浜松市のトランス男性、鈴木げんさんが生殖機能をなくす性別適合手術をせずに、戸籍上の性別変更を静岡家裁浜松支部に申し立てました。

「オペなしで!戸籍上も『俺』になりたい裁判」と言われています。

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でも、私はこの裁判は(裁判を起こすことに意味があるとしても)勝つことは無理だろうと思っています。もし、この裁判に現時点で勝ってしまったら社会が大混乱するでしょう。

この議論がされる時、必ず出てくるのが公衆浴場の話です。「手術要件をなくしたら『男性器をぶら下げた女性』が女湯に入ってくるようになる」というものです。

特に生まれた時からの女性の方から、こういう意見が多いようです。

私も、現在は戸籍上女性ですから公衆浴場に入る時は女湯に入りますが、私も、女湯に『男性器をぶら下げた女性』が入ってきたら絶対にイヤです!

『男性器をぶら下げた女性』を女性として認めたら、銭湯以外のいろんなところでも問題が起きることが予想されます。

また、「猥褻目的で女装する男と見分けがつかなくなる」という意見もあります(私はこの意見には賛成できません)。

SNSでこういう議論が起きるとき、必ず私がコメントするのが「性別が女と男しかないことを前提に話をするから延々と結論の出ない議論になる」ということです。

私が思うに、「体は男性だけど、社会生活は女性として暮らしていいよ」という認定制度のようなものを作って、社会がそれを受け入れればいいのです(もちろん、認定は厳格でなければなりません)。

言ってみれば、第3の性、第4の性のようなものです。

男性、女性のほかに、「生殖器は男性、社会生活は女性」(仮に第3の性)、「生殖器は女性、社会生活は男性」(仮に第4の性)という4つの性(もちろんグラデーションですからそれぞれの中間も存在するかもしれませんが法律上は定義する必要があります)を作れば解決しませんか?

第3の性、第4の性の人は一般の公衆浴場はNG!
(ほかにもNGの場所はあるでしょう。)

もちろん第3の性の人は社会で女性として、第4の性の人は社会で男性として生活している訳ですから第3の性、第4の性であることを社会生活で明かす必要はありません。社会生活上はあくまで女性、男性として暮らせばいいのです。

戸籍には第3の性、第4の性を記載する必要があるかもわかりませんが、戸籍自体不要であるという意見もありますから、これはまた別の議論が必要です。

どうでしょうか。これが、私がいつも思っていることです。

このようにすれば、手術をせずに性別を変更したい人も、社会も納得しませんか?

 

(追記)上に書いた事だけでは医療面での混乱は解決できませんね。例えば、私は戸籍上も健康保険証も「女」になっていますが、前立腺があります。子宮や卵巣はありません。それを医師が的確に把握できる仕組みも必要だと思います。