60代のトランスジェンダー

60歳を過ぎてからジェンダークリニックの門を叩いたMtFのお話

ミッドナイトスワン

草彅剛主演のミッドナイトスワンを見てきました。

 封切り前から草彅剛がトランスジェンダー役をやると話題になっていた映画です。

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【以下、ネタバレ注意】

まず映画が始まってすぐに思ったのは、「あ、お決まりの・・・」でした。

主人公の凪沙(草彅剛)はニューハーフショーパブで働くトランスジェンダーという設定。

もちろん、トランスジェンダー(主にMtF)でニューハーフ関連のお店で働いている方はたくさんいますから、トランスジェンダーが主役の映画でショーパブが舞台になることは何も不自然ではないけれども、「MtF=ニューハーフのお店」という固定観念に乗っかった設定、さらにはお金に困ると性風俗に走る、という流れも安易に過ぎないのではないでしょうか?

MtFを社会がまったく受け入れてくれず、働くには夜の街しかなかった少し過去の時代ならいざ知らず、今は昼の社会でカムアウトしながら働いているMtFも増えてきている時代です。今後さらに昼間の社会でMtFがふつうに働ける環境を作っていかなければならない時に、あいかわらずMtFは夜の街で働くというイメージを演出する必要があったのでしょうか?

また見た目の問題ですが、夜の街で働くニューハーフにしては声は太いし、ヒゲ剃り跡は丸見えなのにはガッカリしました。声は仕方がないにしても、ヒゲ剃り跡ぐらいはメイクで隠してほしかったですね。

そして凪沙はタイに行ってSRS(性別適合手術)を受けて日本に帰ってきます。

女になった凪沙が親戚の娘である一果の実家に乗り込み、一果を取り戻そうとするのですが、その場面で凪沙が床に倒れた時、着ているものがはだけて胸があらわになり「バケモノ」と罵られます。このシーンも違和感いっぱいでした。

凪沙のおっぱいはとてもよく作られていて、本物のように見えました。男であるはずの凪沙にあり得ないはずのおっぱいがあって、それを見て「バケモノ」と罵るという流れなのですが、なぜ着ているものがはだけるだけでおっぱいが丸見えになるのでしょう?

いまどき、胸が膨らんだMtFはみなブラジャーをつけているはずです。床に倒れた時に着ているものがはだけておっぱいが丸見えになるなんて、違和感満載でした。思わず心の中で「あり得ない」と叫んでしまいました。

そして東京に戻った凪沙を訪ねてきた一果が見たものは、股間から血を流して床に臥せっている凪沙。ゴミ屋敷と化した凪沙の部屋。そして汚れ切った水槽の、そこにいたはずの金魚に餌をやる凪沙の姿。

要するに、タイでのSRSが失敗して日常生活もできないという状態なのです。

トランスジェンダーは自分の望む性になりたいがために、わざわざタイにまで行って危険な手術を受け、そしてその手術が失敗して命までも落としてしまうという悲劇のストーリーです。

見ている人は、トランスジェンダーというものはみんなそんな悲劇の人生を歩むものだという間違ったイメージを持つのではないかと心配してしまいます。

そもそも日本での手術に比べ、タイでのSRSは希望者が世界中から殺到していて、技術力が高く、治療症例数も非常に多く、ほとんど失敗しないと言われています。

そのタイでの手術が失敗し、命を落とすという設定は、ゼロではないにしろ、現実ではほとんどあり得ないし、第一、世界から年間何十万人という患者を受け入れているタイの医学界に対して失礼ではないかと思いました。